殴られるのかと、思っていた。
いや、実際は既に殴られているのだが。紅桜殲滅、高杉と闘った時に。あの時、俺はわざとアイツを置いていった。わざわざ危険に巻き込むつもりなんかあるわけがない。あとで制裁が下されることも分かっていながら、俺はあいつに何も告げずに高杉のもとへと向かったのだ。案の定、傷だらけで帰った俺を迎えたのは拍手を送りたくなるほど綺麗な右ストレートだった。平手だとかかわいいことをするヤツじゃないとはわかってはいたものの、スナックお登勢の戸を開けた瞬間ぶっ飛ばされるとは思ってもみなかった。あの時の痛みは一生忘れない。三日間右頬の腫れが引かなかった。それでも、思い切り一発俺をぶん殴って、向かいの家まで破壊したはそれで満足したらしく、あの、こっちまで笑ってしまいそうなほどの笑顔で「おかえり」と、そういったのである。今回も、そうなるのだと思っていた。もちろん、一発では済まない事は予測できていた。それでも、三発ほど殴ったら、それで俺が息を引き取っていないのを前提として、あの笑顔でおかえりと、そう言ってくれるのかとばかり思っていた。










ところがどうだろう。スナックの扉を開けたその先、まっすぐに立ったと見つめあっているのに彼女は俺に殴りかかってくる気配さえない。それどころか、眉を顰めて俺をみつめるその瞳からは、ぽろぽろと透明な雫が、


、?」


滑稽なほど狼狽した俺の声はしっとりとした空気に溶けていった。ぼたぼたとの涙は零れるばかりで、それを拭おうと思うのだけれども、俺の右腕はピクリとも動かない。誰も何も言わなかった。否、言えるはずがなかった。負けず嫌いな彼女の涙なんて、俺でさえそうそう見れるものじゃない。ましてやこれほどの人数の前で、隠すことも我慢することもなくただただ涙を流すなんて。


、」


二度目のそれにびくりとは体を強張らせて、それから無言のまま、俺の隣を駆け抜けていった。拒否反応のような、それ。がそばを通った瞬間におこった風がふわりと前髪を揺らす。


「ちょ、銀さん?!いいんですか?!」
「銀ちゃん、行ってしまったアル」


泣いてたネ。あほか。そんなこと言われなくてもわかってるっつの。口の中がカラリと乾いていて、唇をなめたらびりりと染みた。まだ傷が治ってないらしい。当たり前か。歩くのでさえ難儀する体だ。右のてのひらをみると、やはり包帯でぐるぐる巻きにされていた。


「銀さん!!」


ギリ、右手を強く握りしめる。どれだけ傷だらけでも、どれだけ包帯巻かれてようとも、手放しちゃならねぇモンがある。


!!」


折れた肋骨が悲鳴をあげるが、そんなもの知ったこっちゃない。の後を追ってすぐの路地を曲がった。バランスを崩して転びそうになりながらも必死でを追いかける。ぐんぐんと距離は縮まって、その代わりに俺の息が跳ねる。あ、やべ、いま傷口開いたんじゃね、コレ。痛ェんだけど。必死で右手を伸ばしての手首をつかみ引きとめる。つーかなんでこいつこんな手首細ぇんだよ。おかしくね?何食ってんの。つんのめったをそのまま抱き寄せると、の頭が俺の胸にあたってじいんと傷が痛んだ。


「っ、い、や!!」
「こら暴れんなって」
「離してよっ!」
「いっ、て、っ!」


俺と距離を取ろうと暴れるの腕が肩口の傷にヒットした。あまりの痛みに一瞬左手が痺れる。その隙に逃げられるかと思ったが、意外にもは何も言わずに暴れるのをやめた。奇妙な沈黙があたりを包む。狭い路地裏、脇に置いてあったごみ箱から一匹の猫が飛び出して去って行った。


「…みして」


俺の白の着物をぐいと開いて呻るようにが呟いた。「駄目だ」なんて言えるはずもなく、俺はされるがままであった。脇腹と、肩口の傷が開いているであろうことが感覚的にうかがえる。腕の中では俺の黒い洋服のチャックをおろした。他のシチュエーションだったなら喜ばしいそれも当のが痛そうに顔をゆがめ涙を流しているなんて耐えられるはずがない。幾重にも巻かれた包帯。それがところどころ赤く染まり始めてるのを見、はまたひとつ涙を零した。


「アンタ、は、馬鹿ですか」


必死で嗚咽を抑え込もうとしているのがよくわかったが、結果的には抑え込むどころかしゃくりあげる始末だ。どうしたものか。右手でがしがしと頭を掻いているとの手が傷口へと触れる。包帯越しでも十分痛いそれに一瞬息が詰まった。


「こんな、怪我までして」
「す、すみません」
「どうせまた神楽ちゃんと新八くんも危ない目にあわせたんでしょ」
「…仰るとおりで。」
「それでまた、わたしだけ仲間はずれなのね」


の指先が小刻みに揺れている。どくりどくりと脈打つ俺の傷口は些細な振動も見逃さなかった。ぽとり。俯いたから零れた涙は俺の服へと吸い込まれていく。ぼとり、ぼとり。


「銀時、」


死なないで。
震えるを抱き寄せて「なぁ、、」呟く。次に飛び出しそうになった科白を抑え込むように優しくの唇に触れた時、俺自身が震えていることにやっと気がついた。もう一度くちづけてからぺろり、との唇を舐める。しっとりとしたくちびるは、なぜか異様に冷たかった。「あいしてる」。




















舌先に篭る熱__

(言いたいことなんて、ほんとうはひとつも言えやしない)__











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090506  下西 糺

ああああわわわわわわわわわ…
も、うしわけありません…OTL
これ銀時でしょうか。本当に銀さんなんでしょうか。別人なんじゃないでしょかアアアアアアアァァァァァァァ!!!!
もうジャンピング土下座ものです。
し、精進します…


返品はいつでも承っておりますが慰謝料請求はしないでくださいお願いです…。
相互ありがとうございます!!(恩を仇で返すような真似を!!!)