02. Mukuro Rokudo


 がさり。歩くたびに、スーパーのビニールぶくろがゆれる。それに重なるように、ランドセルについた鈴もちりんと鳴いた。まだ太陽は沈んでいないけれど、ずいぶん肌寒くなってきたなあ。でも、今日はおなべだから、きっと体があったまる。犬ちゃんのためにおかしも買ったし、なんだかしあわせなきぶん、だ。ふんふんと鼻歌を歌いながら、あしもとの石ころを思いきりけった。かつんかつんと軽い音を立てて、さいごには草むらにとびこんでいく。あ、そうだ、今日の算数、わからないところがあったから、ちっくんに教えてもらおうっと。いまにもくずれ落ちそうな階段をいくつものぼる。めいろみたい、だ。もう迷うことはないけれど、ちょっとぶきみだなあと思う。




「ただいまあー」




 へやが広いから、あたしの声は、うわああん、と変にひびいた。天井が高い。ずたずたにちぎれたようなカーテンは、やっぱり新しいのにしたいなあ。黒いソファは、座るとぎしっというけれど、まだ使えるからだいじょうぶ。机の上に、がさりとレジぶくろを置いた。ニラが飛び出している。ちょっとまっても返事がないから、だれもいないのかなって思って部屋を見回したら、ソファからぴょこんと飛び出しているものを見つけた。あれだ、パイナップルの、はっぱ、みたいな。買ってきたものをそのままにして、こっそりとソファに近づいた。のぞきこむと、骸さんが、すやすやと眠っている。頭のはっぱと、のばした長いあしが、ソファから飛び出ていた。あ、まつげながいな。いつものきれーな赤と青のひとみは、いまは目をつむってしまっているのでちっとも見えなかった。つまんないの。そう思ったとき、骸さんのうでが、がっちりとあたしのうでをつかむのを感じた。あっというまにうでを引かれて、あたしの鼻と、骸さんのむねがぶつかって、へんな声が出た。




「ぶっ」
「おやおや、寝込みを襲うとは感心しませんね」




 クフフ、と耳元で骸さんが笑う。ぶつかった鼻がじいんといたんで、ちょっとだけ涙が出た。ちょっとだけ。「骸さん、いたい」にらみつけようと顔を上げたら、思ってたよりもぜんぜん近くに骸さんの顔があって、すごくびっくりした。




、何度言ったらわかるのですか。お兄ちゃん、ですよ」




 やさしくそう言ってから、骸さんはあたしの涙をぺろりとなめた。そのまま、目元にちゅうをする。骸さんのくちびるは、すこしつめたくて、いつもびっくりするのに、そのくちびるでちゅうされたところが、ぜんぶあつくなるから、ふしぎだ。




「んー」
「ほら、お兄ちゃん。言ってご覧なさい」
「骸さん、お兄ちゃんは妹にちゅうなんてしないよ」




 くちびるをとがらせてそう言ったら、そのくちびるにまたちゅってされた。さっきとは違って、吸いつくようにちゅうされたので、へんなこえがでる。骸さんがわらった。




「んむう、」
「外国では当たり前のことですよ」
「でも、ここ日本だもん」
「日本では、兄妹はキスしてはいけないという法律でもあるのですか?」




 ホーリツ。小さく呟いたら骸さんはのどでクフフとわらった。そのままあたしのほっぺと、おでこと、あごと、みみと、それから、顔じゅうのいろんなところにちゅうをして、さいごに、鼻のてっぺんをちゅってした。くすぐったくて、あったかい。骸さんが目の前でわらった。骸さんのわらったかおが、一番好きだなあ。




「外は寒かったでしょう。肌が冷たい」
「でも、もうあったかくなったよ」




 骸さんのおかげだね。そう言ってわらったら、骸さんは変な顔をしてから、はあってため息をついた。お兄ちゃんです、だって。




「まったく、将来が恐ろしいですよ、は」
「え、なにかいった?」




 がちゃん、と、遠くの方でおっきな音がした。あ、犬ちゃんか、ちっくんが、帰って来たのかも! とびらのほうを見つめてから、また骸さんをみると、骸さんもあたしを見てわらってた。




「今日はね、おなべ、なんだよ!」
「それはそれは、身体が温まっていいでしょう」




 今日は冷えますからね。そういって、骸さんはまたあたしにちゅうをした。骸さんがちゅうしてくれたら、おなべも、ストーブもいらないんだけどなあ。










111123  下西 糺


とりあえず骸に「お兄ちゃんって言いなさい」って言わせたかっただけwww