透明な世界


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01
ふわり。生暖かい風がほほをなぜる。手に持っていた眼鏡をかけると、視界が一気にクリアになった。一瞬視線を窓の外に向けてから、少々騒がしい室内に戻した。三時限目と四時限目の間の休み時間、クラスの人たちは仲良しの友達と盛り上がっていた。その仲でもひときわ騒がしいのがわたしの席よりもちょうどみっつ前に座っている坂田くんのグループだ。机に腰掛けて楽しそうにおしゃべりをしている坂田くんのぎんいろの髪が、外の光を反射してきらりと光った。

さん」

いつのまにか隣の席に座っていたのは内田さんと加地さんだった。ばっちりメイクの彼女たちはB組の中でもリーダー的な役割を果たしている。にこりと加地さんが微笑んだ。

さんって、銀時くんたちと同じ中学だったんでしょ?」
「ねぇねぇ、中学のときの晋助くんってどんな感じだった?」
「やっぱりモテてたんでしょー?」

何度聞かされたかわからない台詞をここでも聞かされることになるとは。ため息をつきそうになってあわてて顔に微笑を貼り付けた。

「うん、モテてたよ」

そりゃあもう。こころのなかで付け足す。毎週のように告白されるだなんて、漫画のなかだけの話だと思っていた。でも、それにも頷ける。それほど坂田くんと高杉くんはかっこいいのだ。ちらり、と今度は高杉くんに視線を移した。坂田くんの椅子にどかりと腰をかけて、外の景色を見ている。坂田くんが阿部くんとじゃれあってるのも気にせずに、というよりも興味がないとでもいうように頬杖をついているそれさえ様になってしまうのだから、美形って本当に得だとおもう。美形には美形なりの苦労だとかあるんだろうけど、それは並以下のわたしには一生わからないだろうなぁ。さらり、と今度は高杉くんの髪が風に揺れる。心地よさそうに目を細める高杉くんが、まるで猫みたいだと笑いそうになったしゅんかん、ぱちりと目が合った。

突き抜けるような視線だった。否、そう感じただけかもしれない。やわらかくて、でもどこか冷たい坂田くんの瞳とは違って、高杉くんのそれはただひたすら澄んでいた。淀みなんかこれっぽっちもなくて、まるでわたしのこころのなかを覗かれているようだ。体中のすべての機能が、一瞬、停止した。息が詰まるような感覚。目をそらすことなど許されないかのようだった。高杉くんが、その瞳で、わたしを、みて、

さん?」

唐突に割り込んできたやわらかい声に、反射的に視線を向けた。…違う、耐えられなくなって、わたしは高杉くんから視線を引き剥がしたのだ。不思議そうに加地さんが再度わたしの名前を呼ぶ。

さん?」
「え、あ、何?」
「あのさー、中学のときのアルバムあるでしょ?それ、今度持ってきてくれない?」
「あ、アルバム?」
「そうそう!中学の時の銀時くんと晋助くんが見たいんだよねー!!」
「あーうん、いいよ。」

わたしの生返事に満足したのか、二人は自分の席へと帰っていった。

どくん、どくん。
心臓がこれでもかというほど悲鳴をあげる。び、びっくり、した。高杉くんと目が合うのなんて、そりゃあめったにないけれども、初めてじゃない、はずだ。それでも、あんな瞳は見たことがない、とおもった。射抜くようなそれは一瞬にしてわたしを突き刺していったのだ。目をつむれば先ほどの高杉くんの瞳が浮かんできた。ちらり。うつむいてた顔をちょっとあげて高杉くんの横顔を盗み見る。
視線はもう交わらなかった。






強引にマイウェイ!すらんぷだろうがなんだろうがつっきってやるんだZE!!!



090310  下西糺





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