透明な世界


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04
一体何キロ歩いたんだろう。足がだんだん疲れてきていた。先程中間地点を過ぎたところだから、10キロは越えている、はずだ。越えていないと困る。

「うー、つかれてきたね…ちゃん大丈夫?」
「だ、いじょうぶ…ありがと、鈴ちゃん」
「この間倒れちゃったんだし、無理しちゃダメだよ?」

心配そうに顔を覗き込んでくる鈴ちゃんに笑顔を向けた。ちゃんと笑えてるといいけど。今日の日差しは暖かい。でも、散歩するにはちょっと暑すぎるかも。歩いてるだけで汗が出てくる。
集英高校はとても行事の盛んな高校だ。体育祭、文化祭はもちろん球技大会やマラソン大会などにも生徒が中心になって力を挙げている。その中に大師強歩という行事があるのだ。20キロ近く離れた大師まで徒歩で行くのである。もちろん全校生徒強制参加。よっぽどの事情がない限り歩かなければならないのだ。

「あっ」

叫び声のようなものが漏れたのと、地面が近づいてくるのは同時だった。グン、と迫ってきた地面に反射的に前に手を突き出す。手のひらに小石が突き刺さった。

「い、たぁ…」
「だ、大丈夫?!ちゃん、」
「うん、へーき」

どうやら石に躓いたらしい。川沿いのここはサイクリング用に舗装はされているけれども、集英高校の生徒はその脇の砂利道を歩かなくてはならないのだ。自転車の邪魔にならないように。どうやら少し大きめの石があったらしい。気づかなかった。

「立てる?擦りむいてない?」
「大丈夫だってば。もう、鈴ちゃんってば心配、」

しすぎ。は声にならなかった。足に力を入れた瞬間痛みが走る。う、そ…

「どうしたの?痛いの?」
「ん…ちょっと、ひねっちゃった、みたい」

さいあく。この足じゃあと10キロなんて歩けるわけがない。でも、ここでずっと座って先生をまってるわけにもいかない。中間地点までもどらなきゃ、いけない。だって次の先生がいるところまでは軽く5キロはある。確か。どうしよう。おろおろするわたしと鈴ちゃんに声をかけたのは意外な人物だった。

「…あれ?鈴村?……と、?」

ちょうど逆光になって少しまぶしかった。目を上げると光の中でくるくるの髪がふわりと揺れる。坂田くん、だ。…ということは、

「なんだお前、転んだのか?」

立てるか?高杉くんが少し腰をかがめながら問いかける。立て、ない。蚊のなくような声しか出なかった。心配そうな声色に、ぎゅうと胸が締め付けられる。なんで、全校生徒、400人も居るのに、なんで、よりによって、この人なの。

ちゃん、足、くじいちゃってるみたいなの。」
「まじでか。あんまりうごかさねー方がいいな…」
「ここからさっきの中間地点まで1キロくらいだぞ」
「そりゃーあれだろ、ここで待っててもしょうがねーから運ぶしかなくね?」
「ま、まって!そんな、迷惑、」
「はいはーい俺は別に迷惑だなんておもってないから」
「歩けねーんだから仕方ねェだろ」

ほら、手ぇ貸せよ。
高杉くんが半ばにらむように右手を差し出す。ちょっと躊躇してから、自分の右手をそれに重ねた。わたしよりも少し低い体温にどきりと心臓が跳ねる。ぐい、と力をこめられるまま立つと、左足に痛みが走った。よろけたところを鈴ちゃんに支えてもらう。

「うわ、これ大分やばいんじゃね?」
「だ、大丈夫だから、わたし、」
「お前うるせぇんだよさっきから。とっととしやがれ」

一瞬の沈黙。きっとわたしだけじゃない、鈴ちゃんも、いつも高杉くんと一緒に居る坂田くんもびっくりしたんだろう。だっていつもはとろんとした坂田くんの目が驚きで見開かれている。そりゃあそう、だろう。だって高杉くんが、あの、高杉くんが、わたしの目の前にしゃがんで。それって、どう見ても、おぶされ、って、ことで、

「オイ」
「え、あ、」
「…あーじゃあは高杉に任せて、鈴村、一緒に歩こうぜ」
「え、うん」

ワンテンポ遅れて坂田くんが鈴ちゃんに向き合う。つまり高杉くんに背を向ける。ま、まさか本当に?

。」
「ヒッ、し、失礼します!!」

ぎろりと睨まれて反射的に返事をしてしまった。…ひとりじゃ歩けないわけだし、鈴ちゃんに迷惑かけるわけにもいかないし、ここは高杉くんの好意に甘えよう。わたしがしっかりと掴まったのを確認してから、高杉くんが立ち上がった。ぐん、と視点が高くなる。高杉くん、坂田くんに低杉とかって馬鹿にされてたりするけどやっぱりこう見ると背が高いんだな…

ちゃん、大丈夫?やっぱり私ついていったほうが…」
「だ、大丈夫だから!高杉くんいてくれるし、」

言ってから顔が熱くなる。どうして?別に、何も、

「ほら、もそういってることだし、行こうぜ」

坂田くんが歩き出す。ばいばい、と手を振って鈴ちゃんも後を追った。「行くか」高杉くんのそのことばと同時に、視界が、体が、揺れる。わたしたちは来た道を引き返していた。

「あの、」
「あ?」
「……ごめんね?わたし、重くて、」
「あーまじ重ぇ」
「え、う、うそ!どうしよう今日朝パンじゃなくてご飯だったから…!!」
「う そ。お前軽すぎ」

何食ってんだよ。わたしのめのまえの高杉くんの頭が揺れる。冗談、だったのかな?高杉くんも冗談とか言うんだ…。

「…お前今すげぇ失礼なこと考えただろ」
「え、どうしてわかったの?!」
「本当に考えてたのかよ…」
「…あっ!」

おまえ、ほんとなんつーか…ばかだよな
あまりにも高杉くんが優しい声色でそんなこというから、なぜか泣きそうになった。この感覚、あの時と似てる。みんながいる教室で、わたしたちだけが…。あの時は気まずかったけど、今日会ったら意外と平気だったのかな?高杉くん、気にしてないみたいだし。もしかしたら、モテる高杉くんのことだ。あれくらいのスキンシップどうってことなかったのかも。そして、今おんぶしてくれてるけど、それもやっぱり女慣れしててどうってことないのかも。

。」
「え、あ、なあに?」
「ちゃんと掴まっとけよ。落ちるぞ」

絶対にこっちを向かないから、高杉くんがどんな表情をしてるのかわからないけど、もしわたしの見間違えじゃなければ、わたしに負けないくらい高杉くんの耳が赤く染まってる。そんなの、わたし、自惚れちゃう、よ。たかすぎくん。




   

長くなったり短くなったり忙しいな…。
主人公の性格がつかみきれてないご様子←←




090401  下西 糺





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