透明な世界


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05
さらり。風が、遊ぶように前髪を揺らして去っていった。見上げれば一面に夜空が広がっている。遠くのほうでぽつりぽつりと星が輝いていた。どの時代、どんな場所でもああやって星は輝いている。当たり前であるそれが、今の俺にはひどく不自然に感じた。あの星はまだいきているのだろうか。まだいきていて、自らを煌々と燃やしているのだろうか。それとも、もうこの世には存在していないのであろうか。存在していないのにもかかわらず、こうして目に見えているなど不思議なことである。 「ああ、」 紫煙と共に呟きをこぼした。 「星がよく見える。」

「オイ高杉」

銀時の呼びかけを無視する。少し低い声に言わんとすることを察したからだった。返事をせずに肺まで深く煙を吸い込んで、星空へと投げかけた。にごった吐息は星まで届くはずもなく、目の前で雲散霧消する。ハァ。重たい溜息をついてから銀時も自分の煙草にジッポで火をつけた。視界の端で一瞬オレンジが揺れる。しばらくすると、微かに自分のとは違うメーカーの香りが漂ってくる。銀時が再度、重たい口をあけた。

「高杉、」
「……。」

返事の変わりにまた紫煙を吐き出した。先程と同じようにそれは暗闇へと溶けてゆく。

「あんまちょっかいかけんなよ」
「何のことだ」
「何のことだってお前…のことに決まってんだろーが」

、か。いつも不機嫌そうな無表情。瞳は好奇心で煌いてるくせにそれを眼鏡でおしかくそうとしたり、長い髪をわざわざみつあみにしてまで自分を型にはめようとするヤツ。ああいえばこういう、典型的な可愛くなくてモテないタイプ、か。

「ちょっかいなんざかけてねェ」
「うそつくんじゃねーよ」
「うそじゃねェ」

イラつくんだよ、あいつ。苦々しく呟けば銀時が眉根を寄せるのが雰囲気でわかった。煙を深く吸い込む。あいつを見てると苛々する、から、構いたくなるんだ。なんだ、結局構ってるじゃねぇか、だって?知るかそんなの。俺は、

「わかってんだろ?俺らは、」
「うっせェ」

呟きというよりは囁きにちかいそれをピシャリと遮る。急に煙草がまずくなって、舌打ちを零した。「うっせェ。」 再度呟く。

「わかってんだよ、そんなこと」

ギリ、奥歯を噛み締めながら唸るように呟いた。右手に持っていた煙草を地面へと擦り付ける。それをフェンスに寄りかかりながら見ていた銀時は、そうか、と言って紫煙を吸い込んだ。

「忘れんなよ」

こいつのこういうところが俺は嫌いだ。さらりと確信を突くその言葉が。忘れんな、だと?忘れられるものか。それは、俺たちが交わした、契約。破ることなど許されないのだ。そんなもの、わかりきっている。わかりきっているのに、

見上げれば変わらず星空が俺を見下ろしていた。手を伸ばしたら届くんじゃないだろうか。くだらない錯覚。

「ああ、」

溜息のような声が漏れた。アイツの顔が脳裏に焼きついてはなれない。まっすぐに俺を射抜いていく黒い瞳。

「星が綺麗だ」

アイツの瞳は、星に似ている。




   

高杉視点\(^0^)/
伏線、伏線!




090402 下西 糺





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