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 どーもみなさんこんにちは、人気者のくんですよーっと。先月でちょうど17歳になった俺でしたが、まさかその矢先にあんな事件が起こるとか、まったく予想してなかったよなまっさかー! まあ、かいつまんで話すと、クラスでまあまあ、むしろかなり? 仲良かった高尾が、なんと、俺を、俺のことを、好き、だった、って、いう、こと、でした。……あははー。ギャグのような話ですがまあそれが事実だから仕方がありまっせん。好きっつっても友愛じゃなくて、こう、恋愛感情的な、好きで、キスとか、……せ、せっくす、もしたいって、言われちゃうような、そんな、熱烈な愛情表現を、されたわけですよ。おー、う。それが一週間前の話なわけだけど、まあ、内容があまりに衝撃的だったから、もう二カ月とか三カ月くらい前のことなんじゃないかって、俺は勘違いしそうになる。時たま、あーあの時の高尾の告白、あれ俺の夢なんじゃね? 季節の変わり目だったし風邪でも引いたんじゃね? っていう錯覚を起こしそうになるけど、それは高尾の視線によって毎回木っ端微塵にされてしまうのだ。だって、あいつの瞳が、俺をじっとみつめる、あいつの、それが、まるで、恋、してるみたいに、熱く、て。……って、だから、あいつは、俺のことが好きだって、キスしたいって、言ってた、んだっつーの。忘れそうになるのは、俺自身が忘れたいからなのだろうか。でも、俺、いまどうにかしようっておもってねーし、な。うん。高尾は別に俺の返事なんて求めてなかったし、付き合ってとも言われなかったし、うん。好きだって、そういわれただけだから、俺が何かする必要はないんだ。おう。別に、何もしなくても、なんとかなる、はず、だったのに。


「…………」
「……え、と、あの……なに?」


 どうしてまた俺は男に呼び出されなきゃいけない?
 目の前の長身の男は、眉間に皺を寄せたまま俺のことを見下ろしている。見下ろしてるっつーか、もう見下してるって言ったほうが正しいんじゃね? ってくらいに俺のことを睨みつけている。こえーよふつーに。いやね、俺だってオトコノコですからね、それなりの、なんつーか、喧嘩? はしたことあっけどさ、それはせいぜい2コ上のオニーサンとかで、身長も体格もそう俺と変わんないやつだったわけ。お前何センチだよ。190は余裕であるだろ。俺に身長わけてくれよ、なぁ、緑間真太郎クン。


「……」
「おーい?」
「わからん」
「は?」


 むすりと一言つぶやいてから、緑間クンはかちゃりと眼鏡を押し上げた。それがまたサマになっていて、俺はギリィと奥歯を噛みしめ、嫉妬の炎に焼かれ……って、ちがうちがう。今考えることはそうじゃない、どうして、俺が、数回しか話したことのない、緑間クンに、呼び出されなきゃいけないんだ? 貴重な昼休みを削ってまで、俺とこいつの間になっかあったっけ? なんもねーよな? ただのクラスメイトなだけで、共通点なんて一つも…………あー、はいはい、あったわ共通点。しかも最近で一番インパクトでかいやつが。俺としたことが、忘れてた。こいつ、バスケ部だ。


「わからん。高尾はこいつのどこがいいというのだ」
「いやいやそれ俺がききてーんだけど」


 馬鹿にされたような言い方だったけど、怒りよりも先にツッコんでしまった。いやほんと、俺が聞きてーんだけど。アイツ、俺のどこが好きなの? でもそんな質問したところで、緑間クンなら「知らん」とバッサリ、一刀両断してしまいそうだ。こえーなこいつ。あとなんで右手に栓抜きもってんの? 頭おかしいの?


「つか、え、高尾から聞いてんの?」
「俺が知らないはずがないのだよ」
「……そうか、なのだよ……」


 あまりにも自信たっぷりに言われてしまったので言い返すことができなかった。苦し紛れに語尾を真似してみたら睨まれた。だから、こわいっつーの! はやく要件言えよ! 俺はとっとと教室行って、早くメシ食って、お昼寝してーの! 今日のお弁当はな、母さん特製のハンバーグなわけ! それを俺は朝起きた瞬間から楽しみにしてんだよ! 弁当おかずの中で一番の好物なんだよ! ちなみに一番好きな晩飯はカレーな。これちっさい時から変わんねーよ?


「……なにを考えている」
「え?」


 とっさに、カレーライス、と答えなかった俺を褒めてやりたい。


「カ…………なんのこと?」
「なんのこと、も何も、高尾のことに決まっているだろう」
「え、あ、あー……」


 そうか、そういえば高尾と緑間クンって、仲良かったよな。いや、一般的な“仲良し”とはかけ離れてるんだけど。あまりにも緑間クンがクラスメイトとなじめないから、高尾とだけ異様に“仲良く”みえるだけだ。まあ、部活もレギュラーで、クラスもいっしょで、イケメンとあればあれくらいつるむようになるんだろうな。はは、別に妬んでねーよ? ちょっと僻んでるだけだ。


「それで、返事はしたのか」
「……え?」
「だから、告白されたんだろう? 返事はしたのかと訊いているのだよ」
「え、返事? 返事って何の?」


 次の瞬間、緑間クンの瞳がスッと細まった。その冷たい瞳に、心臓が凍るかと、思っ、た。ああ、これは、マジの目、だ。って、え、っちょっとまてよなんでお前がキレそうなわけ? 俺、なんもしてなくね? いやいやいや、ちょっとまて、ちょっと待とう?! 落ち着け緑間クン、君は、なにか重大な勘違いをしている!!!


、貴様、」
「ちょ、っと! ストップ! タンマ!!」
「は?」
「え、と、お前、高尾から詳しい話聞いてねーの?」


 緑間クンの指先がピクリと動いた。困惑気味に視線が移動する。あ、もしかして、緑間クン、高尾本人から詳しい話を聞いたわけじゃねーんじゃ、ね? この様子だと、告白のことも聞いてたのかどうか怪しいぞ。たぶん、ちょっとしか聞いてなくて、でも高尾の態度が変だから、いろいろと想像して、んで、俺と高尾の関係について、だいたいのことを把握した、んじゃ、ないだろうか。


「あー、俺、高尾に告白されたけど、えっと、」
「……」
「その、好きだって、言われただけで、あー、付き合ってくれとか、俺の気持ちはどうなのかとか、は、なんにも」


 あああ、緑間クンの眉間のしわがどんどん深く……! ものすごーく不快そうな顔をして、緑間クンは俺から視線を逸らした。そして、地の底を這うような低い声で「……馬鹿め」と、そう、呟いた。こ、こえー! こえー、けど、たぶん、今の言葉、俺に向けて言ったんじゃ、ねーとおもう。それに、いまの“馬鹿”には、相手を見下す様子も、乏しめる気配も、感じられなかった。むしろ、


「だからと言って、お前がアイツのことを真剣に考えなくていい、という結論には至らん」
「……え?」


 突然俺に話が戻ってきた、けど、え、ちょっとまてって、俺、別に、高尾のこと考えてなかったわけでも、まして無視してたわけでも、ねーんだけど? 反論は口に出す前に殺された。だから、緑間クン、その眼、こえーってば……!! 君ひと殺したことあるんじゃねーの?! いまはなくても将来ぜってー殺すって! その視線だけで心臓止まりそうなんだけど怖すぎて!!





 アイツを傷つけてみろ。俺が許さん。
 ばたん。空き教室の扉が閉められるまで、俺はその場を動けなかった。こえー。緑間クンまじこえー。でも、それだけ高尾のことが大事ってことだよな。たぶん。じゃなきゃ、あの緑間クンが、休み時間ですら次の授業の予習をしている緑間クンが、わざわざ昼飯まで抜いて、俺に会いに来るはずがない。高尾、お前愛されてるなー。うん、よかったよかった。高尾が緑間クンに愛されてて。うん、ぜんぜん、よくねーって。緑間クンのさっきの言葉が頭の中でぐるぐる回ってる。「だからと言って、お前がアイツのことを真剣に考えなくていい、という結論には至らん」別に、真剣に考えてねーわけじゃねぇよ? 俺なりに、まあ、高尾のことについて考えてたわけで。でも、考えたって答えがでねーんだって、たぶん。高尾は俺のことを好きらしい。それでいいんじゃねーの、って、おもう、し。高尾自身が、俺になにも求めてねー、みたいだ、し。高尾は俺と仲良くしたくて、俺も高尾といると楽しーから、それでいいんじゃねーの、って。……ああ、でも、何も求めてねーなら、ただ仲良くするだけなら、高尾は俺に告白する必要、なかったんじゃねーの? 俺と気まずくなることも、緑間クンとすれちがうことも、なかったんじゃねーのか? 高尾は、どうして俺に告白なんか、したんだ? 「お前のこと、好きだ」 苦しそうな高尾がそう呟く。俺、お前のことぜんっぜんわかんねー、よ。……このままで、いいのか? この先、なんとか、なんのか……?






何とかなるかなと懐疑的に

下西ただす(121028)


みどりまくんと絡ませてみました。
彼は別に恋愛感情なんてないんだけど、高尾くんを大切にしてるんだよ。